モンスターペアレンツという言葉をあまり耳にしなくなりましたが、保護者からの苦情がなくなったわけではありません。
自分が誠心誠意、子どもに対応していたとしても、保護者から指摘されてしまうことはあるのです。
もちろんそんなときには、「なぜこんなことを言われるのだろう」と傷つくこともありますし、泣きたい気持ちになることもあります。
ただ、教師をしていれば、誰もがそんな苦しみを味わっているのです。
ですから、自分だけが責められている、自分だけが十分な仕事をできずにいると、思い悩むことはありません。
私も、保護者からの心ない言葉に何度も悩みました。
数多くの例から、ひとつご紹介します。
あるとき、不登校傾向の子どもを担任しました。
その子どもは、登校したとしても数時間、来られないときには一週間も続けて欠席します。
それで仕方なく、その子どもがいないときに席替えをしたのです。
そして、その日の夕方には、誰から聞いたのか、我が子がいないところで席替えをするとは何事だと電話がかかってきました。
長く教師をしていても、席替えをしたことへの苦情は初めてでした。
その保護者は、毎日ひとつの苦情を見つけては電話をしてきていたので、その頃には、私の心も限界に達していたのかもしれません。
涙が止まらなくなりました。
帰宅してから、校長に明日から出勤できそうにないと、ことの顛末を電話で伝えました。
すると、思ってもみないことを言われたのです。
「その親御さんは、あなたを攻めようと思ったわけではないと思います。子育てに不安で、きっと困っていたんですよ」
私は、びっくりしました。
困っているなら相談してくれればいいのに、苦情で伝えられても理解できないと思いました。
翌日、やっとの思いで出勤したところ、朝からその保護者は電話を寄越しました。
欠席の連絡で、昨日の話を持ち越すような素振りも見せません。
そこで欠席について承ったあと、「一生懸命にやっているつもりでも、○○さんのお気持ちを十分にお察しできずに、申し訳ないです」と伝えました。
その保護者は、その日を堺に苦情を言うのをやめたようでした。
もちろん毎日電話はありましたが、刺々しさがなくなったように感じました。
子育てには正解がなく、頑張っていたとしても思い通りにいかないこともあります。
親というのは、不安や悩みが尽きることはないのだろうと思います。
その際、「どうしたらいいでしょう」とか、「家ではこうなんですが、学校ではどうでしょうか」といった表現で伝えてもらえると、教師も安心して相談に乗ることができます。
情報交換したり、互いの知恵を絞ったりして、子どもに対して協力しながら関わっていこうという絆も生まれていくのです。
その図式を理解できずに、不満をぶつけることで教師に分かってほしい、助けてほしいと訴える方法は、好ましいことではありません。