考えを文章で表現する場合、思考のところでお話ししたように、考えを組み立てるために素材となる言葉のカードを並べてみるやり方はとても有効です。
それだけでは不十分な場合は、手本となる文章を書き示す、大事な言葉を空欄に入れて文章を完成させていくなどの支援をしていきましょう。
「ああ、そういうことなのか」と考えることができれば、それを文章で表すことができるわけではありません。
何かを話して伝えるということ一つとっても、子どもにとっては簡単なことではないのです。
段階を踏んで、思いや考えを順序よく、筋道立てて表現できるように、教師には粘り強い指導と支援が求められます。
文章で表すことが苦手だった子どもたちの例をご紹介します。
算数を教えていたときに、問題の解き方の説明するための文章をノートに書いてみようという活動で、意味不明の文章を書いた子どもがいました。
国語の力も弱いとは思いましたが、誤字脱字だけではなく、言葉の抜けなども気になりました。
ただ、「自分にはできない」という苦手意識がある一方で、できる自分を見せたいという欲求も高い子どもでした。
その後、クラス全体に定型文を使って文章を書かせたり、説明を繰り返し行わせたりすることを続けた結果、その子どもも頭の中で言葉の組み立てができるようになっていきました。
研究授業で多くの教師の前で説明をすることができたときには、とても誇らしげな表情を見せることができました。
もうひとつの例です。
初めて受け持った6年生の夏休みの宿題の点検で、多くの子どもたちの作文を読むのに数週間もかかったことがありました。
この子は何を伝えたいのだろうと頭をひねり、文章をあっちから見たり、こっちから眺めたりするのですが、なかなか読み取れなかったのです。
実は、私は産休代替の立場で9月から担任したので、彼らがどのような指導を受けてきたのかを分かっていませんでした。
当時は45人学級だったので、44人の子どもを担任していました。
数の多さもさることながら、多くの子どもたちが言葉を組み立てられないことに、教師経験の少ない私は呆然としました。
私は少ない知恵を絞って、詩の朗読を繰り返し行わせました。
彼らは、その詩に込められた感情を感じ取ることができるようになり、興味をもって朗読ができるようになりました。
それをきっかけにして、作文も次第に読みやすくなっていったのです。
「心に響くものができれば、学力は自然と伸びる」、そんな感想をもったのを覚えています。
さて、大人であっても、文章で表現するのが苦手だという人は少なくありません。
保護者の中には、「自分もできなかったから、子どもにも期待していません」という方がいます。
しかし、論文や小説のような文章を書くことができなくても、自分の思いや考えを説明することは大切です。
黙っていたのでは自分の思いを誤解されたり、それによって不利益を被ったりすることがあるのです。
今回は、言葉での表現についてお話ししていますが、誰かに何かを伝えようとするとき、私たちは身体や顔つき、視線などでも表現しています。
その際の表現のコツを、ソーシャルスキルと呼びます。ソーシャルスキルを高める方法については、別に詳述します。